1996年5月、我家に2匹目の天使がやってきた。小さくて口の周りは黒く
天使なんて言葉は当てはまらない。でも、とても愛くるしい彼は
我が家の天使になった。

彼は柴犬のカイ。生後2ヶ月半でやってきた。お腹はパピー特有のポッコリお腹。
飛行機に乗ってきた彼が入っていたのは小さな手提げ籠だった。

車に戻ると、先住犬マメが不思議そうに覗き込む。カイにしてみると
知らない土地で知らない人に連れられて知らない車に乗ったら、デカイ顔の

犬が覗き込んでる。って状態。普通なら怯えるか吠えるに違いない。
でも彼は違った。車の中で遊びまわり、スヤスヤ寝息を立てて寝てしまった。

あまりの度胸の良さに私達の方が驚いた。家に着くとマメを相手に大騒ぎ。
威嚇したり怒ったり。初めての寝床にもすんなり寝てくれた。

その日カイが下痢をしている事が気になった私達だが多分
疲れもあるんだろうと様子を見ることにした。
しかし、それがすべての始まりだったのです。


数日後、変な咳きをしはじめ下痢は止まらず福島のブリーダーへ電話した。カ
イの兄弟を譲った先からも同じ電話は貰っているが病気じゃない。
そんな事は知らないと主人と電話口で口論になった。
側で私はハラハラしていたが、カイはお構いなしでマメ相手にじゃれあっていた。
そのうちそれなら取りかえると相手の言葉にキレた主人は]
電話を切ってしまった。冗談じゃない!物みたいに扱うブリーダーの言う事なんてきけるか!
カイは家の大事な子供だ。誰が手放すものか!
結局その後ブリーダーは消えてしまい
カイの血統書は貰えなかった。血統書が貰えなかった事で
カイには悪い事をしてしまったとのちのち後悔した。

咳きは2・3日で止まったが下痢が止まらない。
マメの行き付けの病院へ連れて行った。咳きのことも話したが
たぶん、ストレスだろうとのこと。ゲリに関しては虫が居たのが原因だね
と言われて薬を貰って一軒落着・・・・・と思ったのもつかの間。
今度は毛が抜け始めた。しかも、体臭が異様に臭い。またも先生の所へ。
皮膚病だ。薬を貰って様子を見る事に。どんなに薬を使っても良くならない。
検査をする事になった。1週間の入院。カイ5ヶ月の事だった。
検査の結果、たちの悪いニキビダニによる皮膚病と判明。
この日から一生薬を手放せない
を知らされた。
入院費、食事代、薬代とかかったが、先生はこれから
お金がかかるからと半額にしてくれた。O先生には本当に助けてもらった。
カイは皮膚病の薬に加え亜鉛も補給しなければならなくなったが嫌がることなく飲んでくれた。

そんな生活が3年続いた。そして4年目、3月22日に4才の誕生日を迎えたカイ。
いつもとかわらない1日を送った。3月23日、用事で出かける私は
みんなにお留守番だよと声をかける。みんな元気だ。しっぽも振ってる。
用事を済ませ、お土産も買って30分ほどで家に帰った。
みんなにおやつを配らなくちゃ。と皆の所へ行った。嬉しそうにしっぽを振る。
様子がおかしい。カイが寝たまま起きてこない。カイ?
呼んでも起きない。カイ!呼びながら近寄った私は愕然とした。
カイの呼吸が弱くなっていた。私の呼びかけに立とうとかすかに4本の足を
動かすカイ。カイ!カイ!カイ!半狂乱になりながらどうして良いのか分からず
出張中の主人へ電話した。会議中だったが呼び出してもらう。
カイが、カイが死んじゃうよ。泣きながら訴えるが主人は来れるはずもない。
O先生の所に連れて行け。息はしてるのか?
その後何かを言われたが覚えていない。とにかくバスタオルに包んで
車に乗せた。みんなは何かを感じ取っていたんだろうか。
悲しげに鼻を鳴らし、見つめていた。

私は必死だった。ゴメンねカイゴメンね。お母さん気が付いてあげられなくてごめんね。
頑張るんだよ又お家に戻って来るんだからね。

ブーちゃんもマメもみんな待ってるんだから。カイ。カイ。その時だった。
キャン!最後のカイの声が聞こえた。カイまだダメだよ。
これから楽しい事たくさんあるんだから。カイ、カイ。
私はどうやって病院にたどり着いたのだろう。20分の道のりが
こんなに遠いものなのかと病院から離れている事を恨んだ。
急いでO先生の所に行き涙でグシャグシャの私の顔を見た先生は
「どうした?」と慌てて出てきた。カイが死んじゃう。
それが精一杯伝えられる言葉だった。カイの事を気にかけてくれてた先生。
走り寄ってカイの心臓に手を当てた。もうダメだ・・・・なんでだよ・・・と泣いてくれた。
カイの為に涙を流してくれた。帰りに私の心配までしてくれて
本当に良い先生にみてもらってカイは幸せだと思った。

その日の夜、主人から電話が来た。ダメだったか・・と声を詰まらせ
人前では決して泣く事の無い主人が電話口で声を上げて泣いた。

次ぎの日私は1人でカイを連れて火葬場へ向かった。
車の中でカイが退屈しないように話しかけながら最後のドライブをした。

棺に納めるとき車に乗せるまで閉じていなかったカイの瞳は
最後のドライブに満足したかのように閉じていた。最後のお別れです。
話しかけてあげてくださいとの言葉に、ただゴメンネとしか言えなかった自分。
冷たく降る雨の中をカイは本当の天使になって空へと静かに飛び立った。
私には見えた、カイがシッポを振って走って行く姿が。
その時心の底からありがとうと言えた気がした。4年という短い生涯を
病気と闘いながら足早に駆け抜けたカイ。この4年間楽しい事なんて無かったよね。
病院ばっかり行って。お父さんとお母さんの子供になれてカイは幸せだった?
たくさんの家族に囲まれて幸せだった?助けてあげられなくてゴメンネ。
お母さんはカイと過ごしたこの4年間は本当に幸せだった。カイありがとう。
お父さんとお母さんの子供になってくれて本当にありがとう・・・・